心霊現象は偽物なのか? ― 科学が探る“死後の世界”―

1. はじめに:なぜ人は幽霊を見るのか?

日本各地には数えきれないほどの「心霊スポット」があり、幽霊が出ると噂される「事故物件」も数多く存在します。
わたしたちは日常的に霊的な存在と隣り合わせで生活しているように思えますが、幽霊とは本当に存在するのか、それとも単なる見間違いや、心理作用による幻視・幻覚なのでしょうか?


2. 科学的に見た「心霊体験」の主な原因候補

1)電磁波による幻覚・幻聴

心霊現象を科学的に検証する取り組みでは、心霊スポットで電磁波を測定するシーンを目にします。電磁波が視覚や聴覚に影響を及ぼすことはあるのでしょうか?

低レベルの電磁波ばく露が原因で、皮膚への症状(発赤、チクチク感、焦熱感)や神経衰弱症、自律神経系症状(倦怠感、めまい、動悸)などの不特定の症状が出ると訴える人がいます。そのような自覚症状を一般的に「電磁過敏症」と呼んでいます。

(出典:電磁界情報センターHP

ただし、世界的に数多の検証がおこなわれているにも関わらず、電磁波と電磁過敏症との関連性は確立されていないようで、現時点では電磁波による幻視・幻覚とは言い切れないようです。

ロンドン大学の特異的心理学研究チームが、複数のスピーカーから様々な波長の電磁波を発生させている部屋に被験者に入ってもらい、心霊現象が現れるかという実験をおこなったところ、4分の3近くの人が通常とは異なる感覚(ゾクゾクする、対外離脱感、何者かの存在、等)を感じたといいますが、分析の結果、異状を感じた被験者は「暗示にかかり易い性向」の人たちであり、電磁波と心霊現象との関連性は見い出せなかったとのこと。

(出典:WIRED

2) カビ毒による幻覚

古い建物に繁殖したカビによる毒素(マイコトキシン)が幻覚を引き起すとの説を唱える人もいます。確かに、幽霊が出ると噂される古い家や廃墟にはカビが繁殖しているケースは多いと思われますが、実際にはどうなのでしょうか?

マイコトキシンには多くの種類があり、中毒症状もそれぞれ異なりますが、多いのは内臓障害や嘔吐、下痢といったもので、脳や中枢神経に障害を及ぼす毒素は麦類やトウモロコシで繁殖するカビが中心のようです。
(出典:東京顕微鏡院
建造物のカビによる健康被害としては、アレルギー疾患(鼻水、咳、皮膚のかゆみ)、感染症、シックハウス症候群(頭痛、めまい、倦怠感)、カビ中毒(腹痛、発熱、内臓障害)等が挙げられており、脳や中枢神経への障害については言及されていません。
(出典:カビバスターズ福岡

未知のカビやカビ毒症状の存在も否定はできませんが、可能性としては高く無さそうです。

3)心理的要因・暗示

「幽霊の正体見たり枯れ尾花」という諺があるように、怖いと思うと道端の枯れススキも幽霊に見えるという「認知バイアス」説が有力視されています。

山や木などの自然物が人の顔に見える「パレイドリア」現象は、無意味な形やパターンに対して人間の脳が意味を見出そうとする認知バイアスで、錯覚や幻覚の一種とされることもあります。また、誰かがUFOを見たと報告すると、同調して「私も見た」と感じる人が増える。集団や地域で心理的同調が現れる現象が「集団ヒステリー(Mass Hysteria)」です。メディア報道やウワサの拡散に加え、特に社会的な不安が高まる時期に、短期間に超常現象の目撃や体験情報が急増し、人々の不安や期待が増幅される傾向があります。
(出典:UNIPHOTO PRESS

「幽霊が出る」と言われている場所であるという「集団ヒステリー」現象と、その場の不気味な雰囲気からくる「パレイドリア」現象との複合により、人は幽霊が見えてしまうのかもしれません。


3. 科学的に説明される心霊現象

1)金縛り

睡眠中に身体が動かなくなる金縛りは長く心霊現象だと思われてきましたが、現在では科学的に説明されています。

筋肉が弛緩し、体に力が入らないレム睡眠中に、脳だけが突然目覚めることによって発生しますが、これは「乖離したレム睡眠」が原因と考えられています。体が動かないだけでなく、そのとき見ていた夢と現実が混同し、実際には存在しない映像や音が鮮明に見えたり聞こえたかのように感じる「幻覚体験」が起こることもあります。また、レム睡眠時は情動処理に関わる脳の扁桃体の活動が高まっているため、「恐怖感・不安感」といった情動が生じやすくなります。このために、心霊現象に遭遇したと感じてしまう人もいるようです。
(出典:アリナミン

2)オーブ

心霊スポットで写真や映像を撮影すると、球状の光(オーブ)が映りこむことがありますが、オーブは霊魂なのでしょうか?

オーブ現象の原因は3つあり、①レンズ表面についた塵やホコリが太陽や照明の光に反射して光ったもの、②空気中の塵・雨がフラッシュに反射して光ったもの、③太陽や照明の光がレンズ内で乱反射したもの、とのことで、こちらのサイトではオーブがスピリチュアルな現象であることを完全否定しています。
(出典:旅するフォトグラファー

3)人魂

主に夜間に空中を浮遊する火の玉(光り物)であり、古来より「死人のからだから抜け出た魂」と言われています。

約10m離れた小さい流れの上あたりで、くるみの大きさ程度の青白い光が、2、3個ぼうーと見えるではないか。すぐ、傍にくると、燐光は流れの石垣の上から出て、盛んに移動しているのが分かった。何かがいるらしい。私は、さっと懐中電灯を照らしてみた。なんと、そこに見たのは、ゲンジボタルの幼虫であった。
(出典:佐賀の自然デジタル大百科事典

昆虫学者の故春田俊郎氏が、山でガの夜間採集中に人魂に出合い、勇をふるってこれを捕虫網で捕らえた経験を書いている。 網の中でなお青白く光っていたそれは、なんとユスリカのような小さい虫の群であった。人魂の形状からこれはおそらくある種の蚊柱と思われる。
(出典:公益社団法人農林水産・食品産業振興協会

土葬の後,人体に含まれるリンが気化し放電などでの自然発火や,湿った空気での青白いリン光を人魂や火の玉のように呼んだのだろう。しかしそんなことはなさそうなのである。 まず人体に含まれるリンは,活性が強い白リンや黄リンではなくリン酸カルシウムなどの化合物で,基本的には安定な状態物が多い。リン酸カルシウムは歯磨き粉にも使われる程水にも安定だ。土葬や雨によって,人体内のリンが反応することはなさそうなのである。
(出典:三津和化学株式会社

かつては土葬された死体が腐敗していく過程で放出されるリンが発光または自然発火したものと考えられていましたが、現在は否定されており、上記のような発光昆虫の見間違い説が主流のようです。一部ではプラズマ説を強く唱えている学者さんもいらっしゃいますが、明確に科学で説明されたわけではありません。

これらのように、嘗ては心霊現象だと信じられていたものも次々と解明されてきています。


4. 結論:心霊体験は「偽物」なのか?

心霊現象を科学的にひも解いていくと、原因の可能性として候補にはあがるものの、まだまだ説明しつくされていないことがわかりました。
「心理的な要因で見えたように感じている」ことが最も説得力があるように感じますが、だからといって霊的な存在を完全に否定することもできません。
人の肉体を離れて尚、残存し続ける『残留思念』のようなエネルギー体があるとすれば、それを感じられる感性を備えた人(≒ 霊能者)のみが認知できている、ということが起こっていても不思議ではありません。いま、世界中で研究が進められている素粒子物理学が成熟していくことで、それらのエネルギー体の形や発生原因なども特定される日が来るのを楽しみに待ちたいと思います。

仮に心霊現象の原因が心理的な要因であったとしても、その人にとって怖い思いをしたことは真実です。その恐ろしい体験こそが『心霊体験』なのでしょう。